夏の夕方、ヤードの隅に積まれた廃タイヤの山の前に立ち、手元のバインダーで本数を数えている産廃処理会社の担当者

廃タイヤ・ゴムくずの保管|火災と蚊を防ぐ積み方と量の目安

ヤードの隅のタイヤ。

最初は10本くらいだったはずなのに、気がつくと壁みたいな高さになっている。引き取り先の都合で出せない月が続いて、そのあいだも入ってくる。夏の夕方、その山の横を通ると、蚊がふわっと寄ってくる。

——そういう置き場が、思い当たる方は多いと思います。

廃タイヤは、置いていても腐りません。液も漏れません。だから、他の廃棄物より優先順位が下がりやすい。それは現場の判断として自然なことで、責める話ではありません。

ただ、廃タイヤの山は「量が増えたとき」に、静かに別の話に変わります。廃棄物処理法だけでなく、消防の側からもルールがかかってくるからです。そして一度燃えると、他の火災とは比べものにならないほど消えにくい。

今日は、その「別の話に変わる線」がどこにあるのかを整理します。全部を今週やる必要はありません。自分のヤードのタイヤが、どのくらいの重さになっているかを知るだけでも、判断はずいぶん楽になります。

結論:廃タイヤ・ゴムくずの保管は、次の3つを順番に押さえます。

1. まず「何の産廃か」を確認する——自動車の廃タイヤは合成ゴム製なので、実務上は廃プラスチック類として扱われることがほとんどです。「ゴムくず」は天然ゴム系のもの。許可品目・契約書・マニフェストの種類欄が、ここで決まります
2. 量は、消防の側から見る——ゴム製品・ゴムくずは消防法の指定可燃物(合成樹脂類)にあたり、3,000kgが指定数量です。乗用車タイヤなら、ざっと400本弱で届きます
3. 火災は「消えにくい火災」になる——だから消す備えより、山を小さく分ける・通路を空ける・混ぜないという燃え広がらせない側に手をかけます

そして夏場は、もうひとつ。横積みのタイヤに溜まった雨水は、蚊の発生源になります。これは保管基準そのものに書かれている話です。

1. まず「何の産廃か」を確認する

意外なところでつまずきやすいのが、種類の欄です。

自動車の廃タイヤは、多くの場合「廃プラスチック類」として扱われます。いまのタイヤは合成ゴムでできていて、合成ゴムは合成樹脂の仲間として整理されるためです。見た目も名前も「ゴム」なので、つい「ゴムくず」と書きたくなるのですが、そこがズレやすいところです。

一方の「ゴムくず」は、天然ゴム系のもの(生ゴムや未加硫の天然ゴムのくずなど)を指す区分です。実際に出てくる量は多くありません。

この違いが効いてくるのは、次の3か所です。

場所何が起きるか
許可証の品目「廃プラスチック類」の許可があっても、うしろに (廃タイヤに限る) のような限定条件が付いていることがあります。逆に「ゴムくず」の許可しかない状態で廃タイヤを受けると、範囲外になってしまいます
委託契約書の種類欄許可証の書き方とそろっているか。契約書だけ「ゴムくず」になっている、というズレが起きがちです
マニフェストの種類欄契約書と同じ種類名で書きます。必要なら「廃プラスチック類(廃タイヤ)」のように補記します

許可証の限定条件の読み方は、産廃許可証の見方|事業の範囲と「限定」条件、確認したい3か所にまとめてあります。廃タイヤはまさに限定条件が付きやすい品目なので、一度自社の許可証を開いて、カッコの中まで読んでみてください。

数量欄は「本」では書けない

もうひとつ、現場で手が止まるのが数量です。タイヤは本数で数えるのに、マニフェストの数量は重量(t・kg)や体積(m³)で書きます。

社内では本数で管理して、伝票に書くときだけ換算する——この二段構えにしておくと、現場もラクで、書類もそろいます。換算の考え方はマニフェストの数量、t・m3・kgの使い分けと換算で迷わない考え方を見てみてください。

換算に使う1本あたりの重さは、おおよそ次のとおりです。ホイールが付いたままだと、当然もっと重くなります。

種類1本あたりの目安
乗用車用約7〜10kg
小型トラック用約15〜25kg
大型トラック・バス用約40〜60kg
建設機械・大型特殊用100kg超もある

なお、種類の判断は自治体で扱いが分かれることもあります。迷ったときは、許可を出している自治体の窓口に「うちはこの品目で受けているが、この廃タイヤはどちらで整理するか」と聞いてしまうのが、いちばん早くて確実です。

2. 量は、消防の側から見る

廃タイヤの保管で押さえる3つの点を、高さ・間隔・通路の場面に分けて並べた図
押さえるのは3つ。山を高くしすぎない、山と山のあいだを空ける、見回りと消火のための通路を残す

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

廃タイヤやゴムくずは、消防法の指定可燃物のうち「合成樹脂類」にあたります。指定可燃物というのは、火がつくと燃え広がりやすい・消火が難しい物品として政令で定められているもので、合成樹脂類の定義にはゴム製品、ゴム半製品、原料ゴム及びゴムくずが含まれています(危険物の規制に関する政令 別表第四)。

そして、その指定数量は3,000kg(発泡させたものは20m³)です。

数字だけ見るとピンと来ないので、タイヤに置き換えてみます。

つまり、乗用車タイヤなら400本弱、大型トラックタイヤなら60本ほどで3,000kgに届きます。ヤードの隅に積み上がった山は、思っているより早くこの線を超えます。ホイール付きが混ざっていれば、もっと手前です。

指定数量に届くと、何が変わるのか

指定可燃物を指定数量以上貯蔵・取り扱う場合、その基準は市町村の火災予防条例で定められます(消防法第9条の4)。多くの自治体で、消防への届出と、貯蔵・取扱いの技術上の基準が求められます。

条例なので、中身は自治体ごとに違います。ただ、屋外に積む場合の基準はおおむね次のような形をしています。

数値そのものは自治体で異なるので、うちの市町村ではどうか、を消防に確認するのがいちばん確実です。「産廃のヤードで廃タイヤを保管しているのですが、指定可燃物の届出は必要な量でしょうか」と聞けば、消防の予防担当の方はきちんと教えてくれます。責められる質問ではありません。

そして、この確認を先にやっておく価値は、意外なところにあります。届出の過程で、消防にヤードの配置を把握してもらえるからです。万一のときに、どこに何が積んであるかを知っている消防が来てくれる。それは、どんな消火設備より効く備えかもしれません。

今日できること:山の重さを1回だけ数える

やることはシンプルです。

  1. ヤードの廃タイヤを、大まかな種類(乗用車用/トラック用/その他)に分けて本数を数える
  2. 上の目安重量をかけて、合計の重さを出す
  3. 3,000kgに対して、いまどのあたりかを見る

30分もかかりません。そして、この数字が出た時点で、消防に相談すべきかどうかが自分で判断できるようになります。知らないまま置いておくのがいちばん落ち着かないので、まずここからです。

3. 廃棄物処理法の保管基準も、同時にかかっている

消防の話とは別に、産業廃棄物の保管基準も当然かかります。こちらは廃棄物処理法の側です。

囲いと掲示板の具体的な整え方は、産廃の保管基準|囲い・掲示板・高さの確認ポイントにまとめてあります。廃タイヤは屋外で容器を使わずに積むことが多いので、掲示板に「積み上げ可能な高さ」を書くところまでがセットになります。

保管量の上限も見ておく

処理業として保管する場合、保管できる量にも上限があります。おおまかには次のような考え方です。

立場保管量の上限の考え方
処理施設で保管する(中間処理業者など)1日あたりの処理能力の14日分が基本
積替え保管をする(収集運搬業者)1日あたりの平均的な搬出量の7日分が基本

積替え保管の条件は積替え保管ありの収集運搬許可で押さえる条件と保管上限に整理しています。

廃タイヤで気をつけたいのは、出口が詰まると一気に上限に近づくことです。引き取り先のリサイクル業者やセメント工場が止まると、入ってくる分だけ積み上がる。だから、受入をかけるときに「出す先の予定」も一緒に見るという運用にしておくと、山が育ちにくくなります。

4. 燃え広がらせない積み方

タイヤ火災には、他の火災と違う特徴があります。

タイヤは中に空気の層をたくさん抱えた状態で積み上がるので、外から水をかけても内側まで届かず、表面が消えたように見えても内部でくすぶり続けることがあります。さらに、燃えると熱で分解して油分が出るため、消火に使った水が油を含んで流れ出し、周囲の側溝や河川への影響にもつながります。

だから、対策の軸は「消す」より「そこまで大きくしない」に置きます。

その1:山を分ける

一つの大きな山より、小さな山をいくつかに分けたほうが、火が入っても被害が広がりません。区画のあいだを空けることは、消防の条例の基準としても、崩落防止としても効きます。

その2:高さを抑える

高く積むほど、崩れやすく、消火の水が届きにくくなります。掲示板に書いた高さを超えないことはもちろんですが、それより低いところで自分たちの上限を決めてしまうほうが、現場は迷いません。「タイヤは3段まで」のような、見ただけで分かる決め方がおすすめです。

その3:通路を残す

山と山のあいだに、人が歩ける・重機が入れる通路を残します。見回りのためでもあり、いざというときの消防のためでもあります。タイヤを置く場所を増やすと、真っ先に消えるのが通路なので、ここは線を引いて守ってください。

その4:混ぜない

タイヤの山そのものは、自然発火しにくい部類です。実際の火災は、混ざっていた別のものや、外から来た火が起点になることが多くあります。

その5:火気の段取りを決める

その6:水と消火器の場所を確かめる

消火器の本数と置き場所、消火栓や防火水槽までの距離。これは今日にでも確認できます。ヤードの図に消火器の位置を書き込んで、朝礼で1回共有するだけで、いざというとき動ける人の数が変わります。ヒヤリの共有の進め方はヒヤリハットを責めずに共有する、産廃現場の朝礼の進め方が参考になります。

5. 夏に効く、雨水と蚊の対策

ここは、季節がら先にお伝えしておきたいところです。

横に積んだタイヤのくぼみには、雨水がよく溜まります。そして、その水たまりはヒトスジシマカ(やぶ蚊)の格好の発生場所になります。屋外の廃タイヤは、蚊の発生源として昔からよく知られている代表例です。

これは「気持ちの問題」ではなく、保管基準に「蚊、はえその他の害虫が発生しないようにすること」と書かれている、れっきとした確認事項です。立入検査で夏場のヤードを見られたときに、水の溜まったタイヤが並んでいると、そこを指摘されることがあります。

対策は、どれも手間の軽いものです。

作業する人にとっても、蚊が減るのは素直にありがたい話です。夏の作業環境の整え方は産廃現場の熱中症と粉じん、明日からできる備えと保護具の選び方にもまとめています。

そして、においや虫は近隣からの連絡につながりやすいところでもあります。連絡をもらってから動くより、夏の入り口に一度手を入れておくほうが、結果的にずっと軽く済みます(産廃現場の臭気・騒音クレームに落ち着いて向き合う手順)。

6. 明日からできる、負担の軽い一手

全部は要りません。効きそうな順に並べます。ひとつだけ選んでください。

いちばん上の「数える」だけでも、今日中に終わります。

現場で使えるチェックリスト

分類・書類(事務所で一度)

量と消防

保管基準(廃棄物処理法)

火災を大きくしない

夏の水と蚊

最後に

区画ごとに整然と分けて並べられた廃タイヤの置き場を、通路に立って見渡している産廃処理会社の担当者

タイヤの山は、誰かがサボってできたものではありません。

出す先が止まった。忙しくて後回しになった。断るわけにもいかなかった。そうやって少しずつ積み上がったものです。日々の仕事をきちんと回してきた結果として、そこにあります。

だから、今日やることは「反省」ではなくて、数えることでいいと思います。

何本あるのか。何kgなのか。3,000kgのどのあたりなのか。数字が出た瞬間に、この山は「なんとなく不安なもの」から「対処できる対象」に変わります。相談していい相手(消防、自治体)もはっきりします。

そして、雨上がりにタイヤの水を抜いて回るような、地味で誰にも褒められない作業。あれは、近所の子どもが蚊に刺されない夏をつくっている作業でもあります。記録にも残らないし、感謝もされない。それでも、確かに何かを守っています。

一度に全部そろえなくて大丈夫です。ここまで読んで、ヤードのどの山から数えようか思い浮かんだなら、それがもう第一歩になっています。

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